沖縄の郷土料理に、「アバサー汁」というものがあります。昔は、沖縄の家庭で食べられていた料理です。そんな「アバサー汁」の「アバサー」とは、いったいどんな食材なのか。沖縄の「アバサー」とは何なのかをご紹介します。
沖縄の「アバサー」とはどんな食材なのか
沖縄の言葉で「アバサー」とは、「ハリセンボン」のことを指します。「ハリセンボン」とは身体中にトゲトゲがあり、怒るとぷくーっと膨らむ、あのお魚のことです。「ハリセンボン」は陸にあげると、パクパクと頻繁に口を動かします。
その姿から、沖縄の島言葉(しまくぅとぅば)で「おしゃべりな人(特に女性)」を指す「アバサー」という名がつけられたそうです。「アバサー」は「ふぐ」の仲間で、味は「ふぐ」に似てとても美味しい魚です。「ふぐ」の仲間であるとはいっても、「アバサー」は「ふぐ」と違って毒は持っていません。
毒がないので、家庭で気軽に食べられていたのでしょう。
沖縄の人でも「アバサー」はあまり見たことがない!?
「アバサー」はトゲトゲがあるなど、さばくのに手間がかかる魚であるため、地元の人でさえも、食材として目にする機会はそれほどないようです。スーパーなどでは滅多に出回らず、手に入れるなら市場まで足を運ぶ必要があります。
昔は家庭でもっと食べられていた食材かもしれませんが、今の地元の人は食べたことがないだけでなく、「アバサー」そのものを見たことがないといいます。沖縄県外の人同様、「テレビでしか見たことがない」という人もいます。
もちろん沖縄県民の中でも、食べたことがある人もいます。漁師の家庭であったり、釣りをする人だったりと、日頃魚と接する機会が多い人は食べているようです。
沖縄の市場に行けば、一年中「アバサー」は手に入ります。ただ、市場まで行かないと手に入らない食材なので、それだけ貴重な食材といえるでしょう。
沖縄の人が「アバサー」を食べるというのは、観光客向けのイメージ戦略なのか
沖縄の人がみんな「アバサー」を食べるかといえばそうでもないことを考えると、”沖縄の人は「アバサー」と食べる”と言い切るのは少し違うようです。
「アバサー汁」は沖縄の郷土料理であるといわれていますが、沖縄のなかでも地域が限定されていたり、食べる家庭が限定されていると思われます。
「アバサー汁」は、いわゆる「漁師飯」といわれるジャンルの料理で、すべての家庭が食べていたかといえば、そうでもないというところでしょう。
食材として使える「アバサー」とは
じつは「アバサー」としては「ハリセンボン」のほかにも、「ヒトヅラハリセンボン」・「イシガキフグ」・「ネズミフグ」なども含まれます。身が少ないため、ある程度大きく成長したものでないと食用として出回りません。
できるだけ大きめに成長していないと、少々食べづらい魚ではあります。皮を剥いでしまうと、食べられるところは半分ぐらいになってしまいます。それを考慮して、大きく成長したものしか市場に出回らないのです。
「アバサー」は肝も食べることができる
「アバサー」は「ふぐ」の仲間ではありますが、”毒”がないので新鮮なものであれば、肝も食べることができます。一年中食べることができる「アバサー」ですが、季節によって肝の味わいは違います。
冬の肝は脂がのっていて、夏の肝は脂も少なくさっぱりとした味わいになっています。冬の濃厚な味わいの肝は、人の身体にエネルギーを与えてくれます。また、夏のさっぱりとした味わいの肝は、暑さで食欲がないときでも食べやすくなっています。
「アバサー」のトゲトゲはどう処理するのか
「アバサー」のトゲトゲは、皮を剥いでしまうと一緒に取れてしまいます。「アバサー」の皮も美味しいのですが、皮を食べるとなると、トゲトゲを1本1本毛抜きで抜いていかなければなりません。
「アバサー」の皮の剥き方ですが、口・ひれ・尾の部分に切り込みを入れ、お腹にも皮に沿って切れ目を入れて包丁・ペンチなどで皮を剥いでいきます。すべての皮がはぎ取られると、まるでオタマジャクシのような見た目になります。
皮がない「アバサー」は、身体も一回り小さくなって見た目もオタマジャクシのようになってしまうので、なんだか気の毒に思えてきます。
「アバサー」をさばく時の注意
「アバサー」をさばく時に注意してほしいのは、ケガをしないように気を付けるということです。「アバサー」にはトゲトゲがあり、それが刺さらないように気を付ける必要があります。
じつは、「アバサー」はサメよりも強いといわれているそうです。サメが間違って「アバサー」を食べてしまった場合、「アバサー」の針でサメが死ぬくらい強いとのこと。毒は持ってはいないものの、その取り扱いには充分注意が必要です。
「アバサー」は「ハリセンボン」といわれていますが、針は千本ではないものの、350本くらいの針を持っているとのこと。針には気を付けましょう。
それから、「アバサー」の口は貝をかみ砕けるほど強いといわれています。人間が指などを咬まれると、指が切断されてしまうとのことなので、こちらもケガをしないように注意が必要です。
「アバサー汁」とはどんな料理なのか
「アバサー汁」とは、「アバサー」が入った味噌汁になります。皮を剥いだ「アバサー」の身と、「アバサー」の肝を一口大に骨ごとカットし、お湯で20~30分煮ていきます。その間、アクが浮いてくるので、アクを丁寧に取り除きながら煮込んでいきます。
その後、味噌・青野菜・島豆腐などを加えて煮込みます。最後に、青ネギを散らして完成です。いわゆる「アバサー」入り味噌汁といった料理になります。「アバサー汁」のポイントとしては、やはり肝を入れることが重要になってきます。
「アバサー」の骨ごと煮込むので、「アバサー」の出汁がたっぷりと出ている味噌汁になります。出汁の味わいは、たまらないほど美味しいです。
「アバサー」に適した料理は「アバサー汁」だけなのか
先にも述べましたが、「アバサー」は「ふぐ」の仲間で味が似ているので、ほかにも良いレシピがありそうに思えます。実際、唐揚げやお刺身で食べることもあるそうですが、圧倒的に「アバサー汁」で食べることが多いです。
それはどうしてなのかというと、「アバサー」の身が少ないことが理由となっています。身が少ないので、汁物の出汁として食べるのがちょうどよいとのことです。
「アバサー」でつくった剥製「アバサー提灯」
「アバサー」がまるまるっと膨れた剥製である、「アバサー提灯」なるものがあります。パンパンに膨れた「アバサー」は、とてもかわいらしいものではあります。
「アバサー提灯」以外にも、マグネットやキーホルダーなども作られているようです。それらは、お土産店で目にすることができます。「ハリセンボン」を可愛いと思われる方には、ぜひおすすめしたい!!眺めているだけでも癒されますよ。
まとめ
沖縄の「アバサー」とはどんな食材なのか、「アバサー汁」はどんな料理なのかということを中心にご紹介しました。沖縄の郷土料理である「アバサー汁」は、意外にも食べたことがないという地元の人が多いこともわかりました。
「ふぐ」の仲間であっても毒がなく、とても美味しい「アバサー汁」。沖縄を訪れた際には、一度食してみてはいかがでしょうか?